2.1 ロボット聴覚は聞き分ける技術がベース

鉄腕アトム大事典(沖光正著,晶文社)によると鉄腕アトムには 「スイッチひとつで聴力が千倍になり,遠くの人の声もよく聞こえ,さらに 2千万ヘルツの超音波も聞きとる」サウンドロケータが装備されているという 1. サウンドロケータは,1953年にCherryが発見した選択的に音声を聞き分ける 「カクテルパーティ効果」を実現するスーパーデバイスなのであろう.

聴覚障害者や耳の聞こえが悪くなった高齢者からは「スーパーデバイスでなく ても,常時同時発話が聞き分けられる機能じゃだめなの」という素朴な疑問が わく.日本書紀推古紀には,「一聞十人訴,以勿失能辨」とあり,同時に10人 の訴えを聞き分けて裁いたという「聖徳太子」の逸話が紹介されている.動物 や草木の言葉が聞こえるという「聞き耳頭巾」の昔話は子供たちの想像力をか き立てる.このような聞き分け機能をロボットに持たせることができれば, 人との共生が大きく前進すると期待される.(日本書紀推古紀によれば, 「一聞十人訴以勿失能辨兼知未然」豊聡耳厩戸皇子)

日常生活で最も重要なコミュニケーション手段が話声や歌声などを含めた音声 であることは論を俟たない.音声コミュニケーションは,言葉獲得,非音声に よるバックチャネルなどを包含し,その機能は極めて多彩である.実際,自動 音声認識 (ASR,Automatic Speech Recognition) 研究の重要性は高く認識され, 過去20年以上に渡り膨大な資金と労力が投入された.一方,ロボット自身に 装着されたマイクロフォンで音を聞き分け,音声認識をするシステムの研究は 麻生らの仕事を除き,ほとんど取り組まれてこなかった.

筆者らの研究スタンスは,事前知識最小の音の処理方式を開発すること であった.そのために,音声だけでなく,音楽,環境音,さらにはそれらの混 合音の処理を通じて音環境を分析理解する音環境理解の研究が重要であると考 えた.この立場から,単一音声入力を仮定する現行のASRがロボット学で 重要な役割を果たせ切れていないことの説明が付く.

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Figure 2.1: 音環境理解をベースとしたロボット聴覚の展開

Footnotes

  1. http://www31.ocn.ne.jp/ goodold60net/atm_gum3.htm