1.4.4 テレプレゼンスロボットへの応用

2010年の3月に,米国 Willow Garage社のテレプレゼンスロボッ トTexai に,HARKと音環境を可視化するシステムを移植し,遠隔ユーザが音源 方向をカメラ映像に表示し,特定方向の音源の音だけを聞く機能を実現し た1. テレプレゼンスロボットでの音情報提示の設計は,前節で説明をした 「聴覚的アウエアネスがキーテクノロジである」というこれまでの経験に基づ いている.

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Figure 1.10: Texai (中央) を通じて,remote operator が2人の話者と, 1台のTexaiとインタラクションを行う.なお,場所はカリフォルニア州であるが, 左側のTexaiはインディアナ州から遠隔操作中.

具体的なHARKの移植とTexaiへの HARK 関連モジュールの開発は次の2工程に 分けられる.

  1. Texaiへのマイクロフォン搭載,インパルス応答の測定及びHARKの移植,

  2. Texai制御プログラムが走るROS (Robot Operating System) への HARK インタフェースとモジュールの実装.

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Figure 1.11: Texai の最初の頭部の拡大: 8個のMEMSマイクロフォンを円盤上に設置
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Figure 1.12: Texai の頭部の拡大: 8個のMEMSマイクロフォンを円周状に設置

1.11に最初に設置したマイクロフォンの設置状況を示す. このロボットを使用する講義室と大食堂に置き,それぞれ5度間隔でインパルス 応答を測定し,音源定位の性能を測定した.次に,見栄え,さらには,マイク ロフォン間のクロストークを減少させるためにTexai に頭を付けることを検討 した.具体的には,雑貨店で見つけた竹製のサラダボールである.最初に付け たものとほぼ同じ直径になる辺りに MEMS マイクロフォンを設置した (図1.11).同様にインパルス応答を測定し,音源定位性能について 評価を行った.その結果,両者の性能はそれほど変わらないことが判明した.

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Figure 1.13: Texaiを通じて,remote operator に見える画面

GUI については,Visual Information-seeking matraの,overview と filter を実装した.図1.13に示した Texai自身の斜め下の全方位の画像の中央から出ている矢印が, 話者の音源方向である.矢印の長さは音量を表している. 図中では3名の話者がしゃべっていることが分かる. Texaiのもう1つのカメラの画像が右下に,リモートオペレータの 画像が左下に示されている. 図中の円弧は,filter で通過させる範囲を示す.この円弧内に ある方位から届いた音は,リモートオペレータに送られる. データは図1.14に示したように The Internet を通じて行われる.

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Figure 1.14: Texai の Teleoperation の方法
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Figure 1.15: Texai への HARKの組込方法

GUIと,リモートオペレータ用の操作コマンド群はすべてROSモジュール として実装されるので,図1.15に示した 方法で HARK を組み込むようにした.図中の茶色が HARKシステムである. ここで開発したモジュールは,ROS の Web サイトから入手可能である.

これら一連の作業は頭部の加工,インパルス応答の測定,予備実験, GUIと操作コマンド群の設計を含めて1週間で終了できた. HARKやROSの高いモジュール性が,生産性向上に寄与したと考えられる.

Footnotes

  1. http://www.willowgarage.com/blog/2010/03/25/hark-texai